リンゴの腐らん病は、日本のリンゴ産地で最も警戒される枝幹病害の一つです。
進行すれば主幹を一周し、樹全体を枯死させることもある重大病害です。
本記事では、複数情報を精査し、学術的に整合する内容へ整理したうえで
・病原菌の正体
・症状の見分け方
・感染時期と経路
・外科的処置の具体手順
・年間防除体系
・再発を防ぐ樹勢管理
まで体系的にまとめます。
1. 病原菌の正体と最新知見
病原菌は子のう菌類の糸状菌で、
Valsa mali
(旧称:Valsa ceratosperma)
とされています。
基本特性
- 枝幹部寄生性の胴枯れ病菌
- 形成層を破壊する
- 5〜30℃で活動(適温は20〜25℃前後)
- 潜伏期間は1年以上に及ぶことがある
「弱った樹に出やすい」傾向はありますが、健全木でも傷口があれば感染します。
完全な日和見菌というより「傷口依存型の強病原菌」と考える方が実態に近いです。
2. 症状の段階的変化
初期
- 樹皮が赤褐色に変色
- やや陥没
- 軟らかく水浸状
- 押すとへこむ
中期
- 病斑拡大
- 亀裂発生
- 黒色小粒(柄子殻)出現
- 表面がサメ肌状
末期
- 枝幹を一周
- 上部枯死
- 主幹感染で致命的
3. 感染経路と飛散時期
伝染源
- 既発病部位(通年胞子形成)
- 切除後の放置枝
胞子飛散
- 主に雨滴伝搬
- 3月〜12月が活動期
- 特に低温多湿期(収穫後〜翌年初夏)で感染増加
主な侵入口
- 剪定痕
- 凍害裂傷
- 日焼け
- 摘果・収穫時の果台部
- 台風や雹害の傷
重要ポイント
感染は冬だけでなく、作業で傷が多発する春〜初夏・収穫期にも起きます。
4. 発生リスクを高める条件
- 樹勢低下
- 窒素過多または不足
- カルシウム不足の可能性
- 過着果
- 排水不良
- 粗皮未処理
- 病枝放置
特に高樹齢園・密植園で多発傾向があります。
5. 外科的治療の実際
腐らん病は「薬で治す病気」ではありません。
基本は外科処置です。
① 枝腐らん(細枝)
- 病斑から5cm以上健全部を含め切除
- 切り口全面にペースト塗布
② 胴腐らん(幹部)
- 病斑外側まで大きく削る
- 形成層外縁まで完全除去
- 垂直気味に削るとカルス形成良好
- 塗布剤を厚く塗る
代表的塗布剤
・トップジンMペースト
・バッチレート
削りカスは必ず園外搬出・焼却。
6. 年間防除体系(実務型まとめ)
冬〜早春
- 粗皮削り
- 病斑探索
- 外科処置
- 石灰硫黄合剤散布
萌芽前
- チオファネートメチル水和剤散布
開花後〜摘果期
- 傷を最小限にする丁寧な摘果
- 果柄残し防止
摘果終了直後
- 発生園では薬剤予防散布
収穫後
- 傷を増やさない収穫
- 異常枝の早期切除
7. よくある誤解の整理
誤解1:削れば完治する
→ 削り残しで再発多発。
誤解2:冬だけ注意すればよい
→ 作業期の傷感染が重要。
誤解3:弱った木だけの病気
→ 健全木でも感染。
8. 栽培体系との関係
- わい化栽培では台木部発生に注意
- M系台木は幹部管理を徹底
- 密植園は風通し改善重要
9. 防除の本質
腐らん病対策は5本柱。
- 早期発見
- 徹底外科処置
- 切り口完全保護
- 傷を作らない作業
- 樹勢維持
「見つけたら即処置」が最重要です。
10. 現場目線での優先順位
労力配分を考えると、
優先度A:主幹・主枝基部
優先度B:果台周辺
優先度C:細枝
主幹部を守ることが廃園回避の鍵になります。
11. 腐らん病対策に使っている資材
まとめ
リンゴ腐らん病は
・傷口感染型
・潜伏期間が長い
・外科処置必須
・主幹感染で致命的
という特徴を持つ重大病害です。
しかし、
・傷を減らす
・切り口を守る
・病枝を残さない
・樹勢を落とさない
この基本を徹底すれば、被害は確実に抑えられます。
「気づいた時には遅い病気」だからこそ、
冬の観察と春の作業精度がすべてを決めます。

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